メモリィ
じっと見つめる。
ふっと俯く。
「……」
静かに首を振る。
「そうか」
僕は納得した。 同時に、数年ぶりに会えた貴方に声を掛けたことを後悔した。
――貴方が既に僕を、『思い出』に振り分けているのだと気づいたから。
思い出が綺麗? 誰が決めた?
(それは倉庫に詰め込まれたガラクタ、廃棄出来ないゴミ)
思い出が真っ白? 誰が決めた?
(それは煤で黒くなったガラクタ、色褪せたゴミ)
開ければたちまち流れ出す紙くず。溢れ出すのが真珠のはずは無い。
現在進行形の『記憶』になれなかった、同情されるべき代物――それこそ『思い出』。
何故美化される?
(腐敗を止めるため)
何故腐敗を止める?
(自分のため)
『思い出』は、『記憶』のように想いを伝えることすら出来ない。
その人の望むように歪曲され改悪され、どんどん真実から遠ざかって行く。
僕にとって、貴方は『記憶』の中にある人だった。
1週間、1ヶ月、1年……どんなに離れていても、『思い出』にはならなかった。
確固たる地平線。
確固たる引力。
でも。
貴方にとって、僕は『思い出』の中にしか必要ない男だったのか?
だって。
貴方のその視線は、暗い『思い出』を探るかのようじゃないか。
暗い暗い、出口の見えない洞窟の中。
否。
あの頃から、僕は『記憶』になんて存在していなかったのかもしれない。
『思い出』の倉庫の隅で、ずっとずっとずっとずっと――――
「……ごめん、ね」
「どうして謝るんだ?」
ああ、謝るくらいなら『思い出』にさえ入れてくれなければ良かった。
半端で曖昧な視線で向き合われる、この辛さ。
貴方は項垂れた。
「だって……折角覚えててくれたのに、うまく思い出せなくて……」
教えて、誰なの?
どこで会ったっけ?
過去の僕が壊れていく。
『思い出』の倉庫の隅で、一縷の望みを抱いていたのに――「いつかきっとわかってくれる」と。
重い重い沈黙を押し退け、やがて僕は言った。
「知りたい?」
僕が、何者か。
「……うん」
お願い、もう一度。
いいよ、だけどその代わり。
「僕を、『思い出』から解き放ってくれないか?」
「え?」
貴方に近づく。貴方は逃げる。貴方を捕まえる。
怯えた瞳が僕を映す。
そうだ。そうだよ。
今まで、どうして思いつかなかったのか。
揺るぎない『記憶』として、貴方の心に僕を焼き付ける方法はあるじゃないか――!
この瞬間から――――僕は、貴方の『思い出』で無くなる。
閉ざされた倉庫から解き放たれ、開かれた明るい部屋へと入っていける。
なんて素敵な方法だろう。
僕は笑った。貴方は泣いた。
涙で濡れた顔でさえ、零れんばかりの笑顔に見える。
これも、貴方の『思い出』にされた人間の副作用なのかもしれない。
反転する地平線。
反転する引力。
変わることは簡単だ。
否定は肯定に。嫌悪は好意に。拒否は受容に。
……そして悪事は、『善事』に。
僕は貴方の耳元で、同じ言葉を囁く。
「……僕を、『思い出』から解き放ってくれないか?」
「 」
声は聞こえなかったけれど、貴方の首は頷いた。
つまり、それが僕の真実。
ふっと俯く。
「……」
静かに首を振る。
「そうか」
僕は納得した。 同時に、数年ぶりに会えた貴方に声を掛けたことを後悔した。
――貴方が既に僕を、『思い出』に振り分けているのだと気づいたから。
思い出が綺麗? 誰が決めた?
(それは倉庫に詰め込まれたガラクタ、廃棄出来ないゴミ)
思い出が真っ白? 誰が決めた?
(それは煤で黒くなったガラクタ、色褪せたゴミ)
開ければたちまち流れ出す紙くず。溢れ出すのが真珠のはずは無い。
現在進行形の『記憶』になれなかった、同情されるべき代物――それこそ『思い出』。
何故美化される?
(腐敗を止めるため)
何故腐敗を止める?
(自分のため)
『思い出』は、『記憶』のように想いを伝えることすら出来ない。
その人の望むように歪曲され改悪され、どんどん真実から遠ざかって行く。
僕にとって、貴方は『記憶』の中にある人だった。
1週間、1ヶ月、1年……どんなに離れていても、『思い出』にはならなかった。
確固たる地平線。
確固たる引力。
でも。
貴方にとって、僕は『思い出』の中にしか必要ない男だったのか?
だって。
貴方のその視線は、暗い『思い出』を探るかのようじゃないか。
暗い暗い、出口の見えない洞窟の中。
否。
あの頃から、僕は『記憶』になんて存在していなかったのかもしれない。
『思い出』の倉庫の隅で、ずっとずっとずっとずっと――――
「……ごめん、ね」
「どうして謝るんだ?」
ああ、謝るくらいなら『思い出』にさえ入れてくれなければ良かった。
半端で曖昧な視線で向き合われる、この辛さ。
貴方は項垂れた。
「だって……折角覚えててくれたのに、うまく思い出せなくて……」
教えて、誰なの?
どこで会ったっけ?
過去の僕が壊れていく。
『思い出』の倉庫の隅で、一縷の望みを抱いていたのに――「いつかきっとわかってくれる」と。
重い重い沈黙を押し退け、やがて僕は言った。
「知りたい?」
僕が、何者か。
「……うん」
お願い、もう一度。
いいよ、だけどその代わり。
「僕を、『思い出』から解き放ってくれないか?」
「え?」
貴方に近づく。貴方は逃げる。貴方を捕まえる。
怯えた瞳が僕を映す。
そうだ。そうだよ。
今まで、どうして思いつかなかったのか。
揺るぎない『記憶』として、貴方の心に僕を焼き付ける方法はあるじゃないか――!
この瞬間から――――僕は、貴方の『思い出』で無くなる。
閉ざされた倉庫から解き放たれ、開かれた明るい部屋へと入っていける。
なんて素敵な方法だろう。
僕は笑った。貴方は泣いた。
涙で濡れた顔でさえ、零れんばかりの笑顔に見える。
これも、貴方の『思い出』にされた人間の副作用なのかもしれない。
反転する地平線。
反転する引力。
変わることは簡単だ。
否定は肯定に。嫌悪は好意に。拒否は受容に。
……そして悪事は、『善事』に。
僕は貴方の耳元で、同じ言葉を囁く。
「……僕を、『思い出』から解き放ってくれないか?」
「 」
声は聞こえなかったけれど、貴方の首は頷いた。
つまり、それが僕の真実。