切り捨て挽歌
※突発企画「30分小説企画(テーマ:もつれる感情)」参加作品※
嗚咽が止まらない。悲しみが抑えきれない。
顔を隠し本音を隠し、私はただ涙する。地面に付いた膝が痛い。それはそうよね、だって足元は灰色のコンクリートなんだもの。
「どうしたの?」
貴方は私に問う。
「顔色悪いけど……ねぇ、平気?」
気付いて無いのね。自分の罪に、自分の過ちに。
それが虚しくて、私は再び涙する。
この凍てつく寒さなんて意にも介さず、貴方は言った。春に咲く花よりも美しく、朗らかな笑顔で。
「私、赤ちゃんが出来たの」
「だから相手も、さ……結婚しようって」
「だから、夢も諦めるの。これから花嫁修業しなきゃだし」
優しい台詞で責めないで。温かい手で突き放さないで。輝く瞳で私を見下し、しなやかな脚で私を踏み付けるのはもうやめて。
綺麗な表現なんか要らない。御大層な理由なんて要らない。
無知な貴方に、わかることなんて一つも無い。
肩に掛けた鞄がするりと落ちた。たくさんの夢を詰め込んだ――見てよ見なさいよ、貴方のために集めたオーディション案内がまだこんなにあるのよ?
女優になりたいって。演技がしたいって。
夢を掴み損ねた私の分まで、どこまでも響く台詞をどこまでも紡いでくれるって言ってたじゃない。
(その眩しい容貌が羨ましい)
(手を伸ばせば掴めそうで、掴めない現実)
(近付くことさえ出来ない)
こんな顔ではもう先に進めない、そう感じて唇を噛んだ夏の日に貴方と出会った。貴方の手助けになるなら何でもすると決めた。
夢だなんて嘘。
ちょっと言ってみたかっただけのくせに。
夢を泡沫にしないで。
私の夢を叶えてくれるのは、貴方しかいないと思ったのに。
「子どもなんてどうでもいいでしょう?」
ほら、早く堕ろしてオーディションに行って。
「男のことだって知らなかったわ、別れなきゃ」
ほら、さっさと捨てて私の夢を掴んで。
立ち上がりつつ口早に言うと、貴方は目を剥いて一歩後ずさった。表情がいつもと比べ物にならないくらい暗いわ、女優らしくないじゃない。
「……何で、そんな、残酷なことを……?」
うわ言のように、呆然と。
貴方は顔を歪ませて返してきた。
残酷?
いいえ、私は残酷なんかじゃ無いわ。
(貴方のように恵まれた容姿すら持ち合わせない、憐れななりそこないの女なだけ)
そうよ、本当に残酷なのは貴方のほう。
(私に貴方の顔があったなら)
出会ってからずっと私を打ちのめしているのは、貴方以外にいないのよ。
もつれていく。もつれていく。
感情だけが先へと行ってしまって、何もわからない振りをしていた。誤魔化しているうちに、嘘も真実になると思い込みそうになっていた。
でも、これでようやくわかったわ。
私は貴方のような、容易く世迷言を言うような女に憧れてはいなかった。
憧れの裏にあったのは、嫉妬。
悟ってしまえば興味も失せる。
「もういいわ、さよなら」
制止するのも面倒になって、埃を払って歩き出す。すると今となっては赤の他人に等しい女が、「待って」と私の手を掴んできた。
「少しでいいの……もう少しだけ話を聴いて、私はただ……!」
「離してよ、気持ち悪い」
私の夢を叶えてくれない貴方なんて、私の欠片にすらなりはしないんだから。
顔を隠し本音を隠し、私はただ涙する。地面に付いた膝が痛い。それはそうよね、だって足元は灰色のコンクリートなんだもの。
「どうしたの?」
貴方は私に問う。
「顔色悪いけど……ねぇ、平気?」
気付いて無いのね。自分の罪に、自分の過ちに。
それが虚しくて、私は再び涙する。
この凍てつく寒さなんて意にも介さず、貴方は言った。春に咲く花よりも美しく、朗らかな笑顔で。
「私、赤ちゃんが出来たの」
「だから相手も、さ……結婚しようって」
「だから、夢も諦めるの。これから花嫁修業しなきゃだし」
優しい台詞で責めないで。温かい手で突き放さないで。輝く瞳で私を見下し、しなやかな脚で私を踏み付けるのはもうやめて。
綺麗な表現なんか要らない。御大層な理由なんて要らない。
無知な貴方に、わかることなんて一つも無い。
肩に掛けた鞄がするりと落ちた。たくさんの夢を詰め込んだ――見てよ見なさいよ、貴方のために集めたオーディション案内がまだこんなにあるのよ?
女優になりたいって。演技がしたいって。
夢を掴み損ねた私の分まで、どこまでも響く台詞をどこまでも紡いでくれるって言ってたじゃない。
(その眩しい容貌が羨ましい)
(手を伸ばせば掴めそうで、掴めない現実)
(近付くことさえ出来ない)
こんな顔ではもう先に進めない、そう感じて唇を噛んだ夏の日に貴方と出会った。貴方の手助けになるなら何でもすると決めた。
夢だなんて嘘。
ちょっと言ってみたかっただけのくせに。
夢を泡沫にしないで。
私の夢を叶えてくれるのは、貴方しかいないと思ったのに。
「子どもなんてどうでもいいでしょう?」
ほら、早く堕ろしてオーディションに行って。
「男のことだって知らなかったわ、別れなきゃ」
ほら、さっさと捨てて私の夢を掴んで。
立ち上がりつつ口早に言うと、貴方は目を剥いて一歩後ずさった。表情がいつもと比べ物にならないくらい暗いわ、女優らしくないじゃない。
「……何で、そんな、残酷なことを……?」
うわ言のように、呆然と。
貴方は顔を歪ませて返してきた。
残酷?
いいえ、私は残酷なんかじゃ無いわ。
(貴方のように恵まれた容姿すら持ち合わせない、憐れななりそこないの女なだけ)
そうよ、本当に残酷なのは貴方のほう。
(私に貴方の顔があったなら)
出会ってからずっと私を打ちのめしているのは、貴方以外にいないのよ。
もつれていく。もつれていく。
感情だけが先へと行ってしまって、何もわからない振りをしていた。誤魔化しているうちに、嘘も真実になると思い込みそうになっていた。
でも、これでようやくわかったわ。
私は貴方のような、容易く世迷言を言うような女に憧れてはいなかった。
憧れの裏にあったのは、嫉妬。
悟ってしまえば興味も失せる。
「もういいわ、さよなら」
制止するのも面倒になって、埃を払って歩き出す。すると今となっては赤の他人に等しい女が、「待って」と私の手を掴んできた。
「少しでいいの……もう少しだけ話を聴いて、私はただ……!」
「離してよ、気持ち悪い」
私の夢を叶えてくれない貴方なんて、私の欠片にすらなりはしないんだから。