SISTER. - 夢幻破滅論
※突発企画「30分小説企画(テーマ:夢見た数だけ)」参加作品※
姉さん、姉さん。
私の声が聴こえますか? 貴方にきちんと、届いていますか?
「……ッ……!」
口から赤いものを吐いて倒れた娘は、それと同じ色の湖に浸った。ドロドロとして気持ちが悪いのは確かだが、体温に近い生温さはある種の心地良さも孕んでいる。
不快と快。
いずれも境界が蕩けたように曖昧で、いっそ交じり合ってしまえればどれだけ楽なことだろう。
だが共存は出来ても、融合は出来ない。
「あ……っく、う……」
彼女はそのことを十分に知っているからこそ、呻き声しか上げられなかった。
痛みと癒し。
みるみる蝕まれていく、この、紅の、――血の、饗宴。
苦しいの? 悲しいの?
私なら消せるよ。貴方の持っている負を全部、夢に変えられる。
膝より長い黒地のコートには、青みがかった銀色の刺繍が施されている。
喪服を纏うつもりで娘が選んだ『バケモノ』としての装束は今や血に汚れ、どす黒く染まりつつあった。やがて凝固し始めたか、美しく光る銀糸を醜く汚す。人気の無い街はさながらゴーストタウン、彼女の身体も街に相応しく体温を下げ始めた。
「……オーヴは、どこ……?」
いない人間の名を呼んでは、動かない上半身を鞭打ち無理やり顔を上げる娘。コートの下に着る――にはあまりに優しい色をした花色のワンピースが、血に浸る度音を立てる。
死にたいの? 生きたいの?
私を置いていかないで。貴方と夢を、追いたいのに……
「もう止めよう、オーヴ」
娘は、誰にとも無く呟いた。
死までのカウントダウンはひたひたと近付いたかと思えば、確実に彼女から生気を奪い取る。それを承知で、娘は呟くのだ。
届かない、諫言。
(甘言にしか聴こえないのだろうか)
聴こえない、制止。
(このまま静止して届かないのだろうか)
「止めよう、……『カミサマ』」
――『バケモノ』とされた姉は、『カミサマ』となった妹を護り続けた。――
花色のワンピースに似た、温かな御伽噺。
――『カミサマ』へと変わった妹は、『バケモノ』と蔑まれた姉を見つめ続けた。――
赤黒く染まってしまったコートに似た、真実の歴史。
『カミサマ』よりも先に、傷付き疲れきった『バケモノ』は擦り切れてしまう。
限りある命を捨てようとしなかった『バケモノ』は、人としての感情を無くした『カミサマ』を永久には護れない。
姉さん、姉さん。
私の声が聴こえないの? 貴方に全然、届いていないの?
指先を動かせなくなった姉はただ「縋る」という人間の感情に似た反応しか出来ない妹を、心の中で抱き締める。
姿の見えない妹。『カミサマ』の地位を降りられない妹。
「置いていって、ごめんね」
血は赤く、赤く、赤く、――『バケモノ』だった彼女の全てを蝕み、溶かしていった。
夢見た数だけ、犠牲は降り積もる。
『ただ、二人で夢を見続けていたかった』
『それだけだったのにね、オーヴ……』
姉さん? 姉さ……ん?
…………あれ、「姉さん」ッテ、ダレ?
ワタシハヒトリ。
イママデモコレカラモ、ズットヒトリジャナイ。
独りぼっちになった『カミサマ』には、もうどんな声も届かない。
私の声が聴こえますか? 貴方にきちんと、届いていますか?
「……ッ……!」
口から赤いものを吐いて倒れた娘は、それと同じ色の湖に浸った。ドロドロとして気持ちが悪いのは確かだが、体温に近い生温さはある種の心地良さも孕んでいる。
不快と快。
いずれも境界が蕩けたように曖昧で、いっそ交じり合ってしまえればどれだけ楽なことだろう。
だが共存は出来ても、融合は出来ない。
「あ……っく、う……」
彼女はそのことを十分に知っているからこそ、呻き声しか上げられなかった。
痛みと癒し。
みるみる蝕まれていく、この、紅の、――血の、饗宴。
苦しいの? 悲しいの?
私なら消せるよ。貴方の持っている負を全部、夢に変えられる。
膝より長い黒地のコートには、青みがかった銀色の刺繍が施されている。
喪服を纏うつもりで娘が選んだ『バケモノ』としての装束は今や血に汚れ、どす黒く染まりつつあった。やがて凝固し始めたか、美しく光る銀糸を醜く汚す。人気の無い街はさながらゴーストタウン、彼女の身体も街に相応しく体温を下げ始めた。
「……オーヴは、どこ……?」
いない人間の名を呼んでは、動かない上半身を鞭打ち無理やり顔を上げる娘。コートの下に着る――にはあまりに優しい色をした花色のワンピースが、血に浸る度音を立てる。
死にたいの? 生きたいの?
私を置いていかないで。貴方と夢を、追いたいのに……
「もう止めよう、オーヴ」
娘は、誰にとも無く呟いた。
死までのカウントダウンはひたひたと近付いたかと思えば、確実に彼女から生気を奪い取る。それを承知で、娘は呟くのだ。
届かない、諫言。
(甘言にしか聴こえないのだろうか)
聴こえない、制止。
(このまま静止して届かないのだろうか)
「止めよう、……『カミサマ』」
――『バケモノ』とされた姉は、『カミサマ』となった妹を護り続けた。――
花色のワンピースに似た、温かな御伽噺。
――『カミサマ』へと変わった妹は、『バケモノ』と蔑まれた姉を見つめ続けた。――
赤黒く染まってしまったコートに似た、真実の歴史。
『カミサマ』よりも先に、傷付き疲れきった『バケモノ』は擦り切れてしまう。
限りある命を捨てようとしなかった『バケモノ』は、人としての感情を無くした『カミサマ』を永久には護れない。
姉さん、姉さん。
私の声が聴こえないの? 貴方に全然、届いていないの?
指先を動かせなくなった姉はただ「縋る」という人間の感情に似た反応しか出来ない妹を、心の中で抱き締める。
姿の見えない妹。『カミサマ』の地位を降りられない妹。
「置いていって、ごめんね」
血は赤く、赤く、赤く、――『バケモノ』だった彼女の全てを蝕み、溶かしていった。
夢見た数だけ、犠牲は降り積もる。
『ただ、二人で夢を見続けていたかった』
『それだけだったのにね、オーヴ……』
姉さん? 姉さ……ん?
…………あれ、「姉さん」ッテ、ダレ?
ワタシハヒトリ。
イママデモコレカラモ、ズットヒトリジャナイ。
独りぼっちになった『カミサマ』には、もうどんな声も届かない。