SISTER. - トビラ(SIDE/Younger-sister)


 姉さん、姉さん。
 ごめんね、ごめんね。



 それでも私は、『チカラ』の誘惑に勝てなかったのです。





 噎せ返るような臭い。身を焼くような熱さ。
 描いた魔方陣は決して美しいものでは無く、故に醜悪さの中で膨大な『チカラ』を秘めていた。
 ――研究の成果が、ここにある。
「やった……やったよ、姉さん……!」
 興奮して叫ぶ私の姿は、いかほど狂って見えたのだろう。
「あ……あ……」
「姉さん、来てよ。私の論は正しかったの、成功したの」
「……!」
 びくり、と身を竦ませる姉が視界の端に映る。

 彼女は部屋の隅にいた。
 私の一連の魔法研究と、その末に現れた『チカラ』を見届けるためだ。
「……」
 黙っている。怯えている。
「姉さん?」
「ほ……本当に、こ……で……良か……た?」
 声からも不安が滲んできて、ただでさえ私より成長の遅い身体が儚く感じられる。
「……あたし……不安なの……」
 吐息はか細く、でも心配なのだと必死に伝えようとする姉。
 優しくて強くて大切な人。
「大丈夫だよ、きっと」
 私はそれに対して、根拠の無い自信を口にした。
 大丈夫だ、大丈夫で無くてはいけない。だって嫌な臭いも付き纏う熱さも、――この人をずっと守りたいがために得た『チカラ』なんだから。



 魔方陣が動き出す。
 足から『チカラ』に侵食されていく。
「……っ……」
 電撃にも似た痛みはあったが、大したことは無い。
 この論を完全にするためには自らを実験体にするしか方法は無かったし、それで成果が明確化するならその意味もある。
 腐っていくのは、身体か心か。
「待って、止めて……――――!」

 私の名を叫ぶ姉の声が、遠ざかる。
 事実として「遠ざかっている」のは私の意識で、失くしてはならない『何か』。





「……姉さん、ごめんね」
 私は、呑まれるのだろう。

(一体……何に?)

「もう私のことは……忘れて」
 本当に悪いのは『チカラ』じゃなくて、姉さんの気持ちを何ら汲もうとせず夢中になり続けた私。
 そこまで夢中になったのにも、意味があったはずなのに。



 ――何になったとて、貴方は私と姉妹でいてくれますか?





>>>「ENDLESS KILLER」




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2008.4.16  藍咲万寿